書庫 2017年

 最近のてい鍼による症例から【その2】頭痛のぼせ

今週あった著効例。

40代 男性 体格よい。肩が凝り顔赤く頭痛もする。頭重もあり気分がすっきりしない。慢性的な腰痛持ちであるがいまはない。時々足がやけることがある。腎の陰虚として本冶するもまだ顔が赤い。そこで太い金てい鍼にて関元付近の虚を見つけ軽く接触させ気を補う。先ほどまでの顔の赤みがすっと引く。気分も落ち着いて頭もすっきりし気持ちがよいという。あとは軽く標冶をして終わる。

気になっていたことですが、鍼灸重宝記打鍼の手法などにもある食指と中指のあいだに鍼を置く図に最初違和感を覚えたものですが下腹丹田あたりの押し手には慣れればこちらのほうがしっくりと馴染めそうな気がしてきているのですがさて....。

 最近のてい鍼による症例から 【その3】瞬間にゆるむからだ

頭痛、気分が悪い、頭はボーとしている。脈はやや沈細で舌滑ぎみ。からだに触れると肌肉に柔らかさがなく痩せて硬い。本治法。てい鍼にて左太白穴に補法をする。一瞬でからだ全体がゆるんで楽になる。うまく証決定出来ているようである。冷たかった足部はすぐ暖かくなり気分もよくなる。虚体の患者さんは本治法のみで驚くような変化がみられることがあります。

もっともそれだけ証を間違えてはなりませんが。

 刺さない鍼てい鍼

てい鍼 これが刺さない鍼「てい鍼」です(写真)。

この「てい鍼」で施術をすすめることがおおいです。その後ご本人のおからだの状態に合わせて施術方法をいろいろと変化させていくこととなります。鍼が痛い灸が熱いなどは術者自身も嫌です。この「てい鍼」は先端が黍や粟粒大にしてあるものが多く、ここを皮膚に軽く当てるだけです。ふつうそんなことでどうなるのかと?お考えになることでしょう。

古典的な鍼灸医学では人間のからだには「気」の巡る循環路「経絡」というものがあり病になるとこの循環路に変調をきたすものとされています。事実慣れてくると指先でかすかに「経絡」をふれることができます。この「経絡」上にあるツボに「てい鍼」を当て、弱った気を補ってその勢いでわるいもの(昔の人はこれを邪気と呼んだ)を追い出すようにします。ただ当てただけではほとんど何も変わらないでしょう。そこがこの「てい鍼」の使い方の難しいところなのです。物理的に圧迫したり擦ったりして使うものでなく、術者による「気」の誘導、調整ができなければならないのです。

「てい鍼」を使う

「五十肩になったのでしょうか?」、「腱鞘炎になってなかなか治りません!なんども手術したのですが...。」とあちこちの痛みを訴えやってこられるかたが鍼灸院には多いです。腰痛などのこともあるのですが、こんなとき膝の陰谷また曲泉というツボにこのてい鍼を軽く接触させ気を補ってやると手がすっと挙がったり手首の痛みや腫れそして熱感が瞬時に退いてらくに動かせるようになることがたびたびあります。もちろん腰痛もらくになることがおおいです。痛む局所になにもせずこんな現象が起こるのです。中年くらいのかたでわれわれが陰虚とよび、おからだの血や水が減った状態になっているときによくみられます。

以下はやや専門的内容となります

「てい鍼」については霊枢官鍼篇、九鍼論篇、九鍼十二原篇、鍼灸重宝記、古今医統などに簡単な記述があるのみのようです。わたしはその日の体調(気の乗り方かも)で何種類かの「てい鍼」を使い分けるようにしています。「ごう鍼」のように気を飛ばしてしまうことがあまり無いので重宝しています。

てい鍼の使い方

「てい鍼」の使い方がどうもよくわからないという方が多いのではないでしょうか?てい鍼に興味あるのだが「気」が判らないということもよく聞きます。ここでは「わたし流の使い方」を述べてみます。てい鍼を使うための「糸電話練習法」の項もご覧ください

当院では基本的に経絡治療で施術しておりますが、本治法はほとんど「てい鍼」でおこなっています。はじめのころはごう鍼を使っていましたが一部を除きほとんど施術効果にかわりないようですしむしろ「術者にとっては疲れにくくからだにやさしい」ようです。下圧のほうはかかり過ぎはいけません(軽く接触するかしないか程度でよい)が、一方左右圧云々と論じられることがあるのですが締めればよいというものではないとおもいます。そんなに力んでどうするつもりでしょうか。指先では密着感というよりも「フィット感」という言葉が適切といえましょうか。そしてもっと大事なことはからだのどこにも余計な力みというか硬さ、無理がかからないこと。どちらも気の集まり具合がポイントになるのですがこれがはじめはわかりにくいものです。慣れてくれば気のある層に自然に行くようになりあまり私の場合はここが衛気か栄気かなどと理論で考えません。「ああここ」という感じです。取穴の時もてい鍼で穴所付近にくると穴のところに自然にというか特別な感じで引き寄せられるというのか、わかるものです。そしてはじめは気を入れてやろうと意識しないとできないものですが、やがて自然に無理をしないほうがよいことにかわってくるものです。押手または刺手から気を入れるでなく、押手刺手を構えることをきっかけに「術者のからだ全体」が受け手と一体になる感じになり、尚且つもっとこの一体感の場が広がってゆく気持ちになるのが良いようです。そうするほどに術者は疲れることがありません。もちろんそれ以前から受け手と気の交流を高めておくことも大切と思います。気の合わない人などがあることも事実でしょう。ごう鍼の場合手技が悪かったりすると受け手術者共に疲れてしまいます。また取穴がとても微妙になり不確定な要素が増えてしまいます。術者が一生懸命それを修練するのもひとつのやり方として良いですが、わたしはそのようなことよりももっとおおらかに全体的な施術の流れ、場の雰囲気も乱さないような術者の不動の気持ちが大切ではないかと考えています。あまりかたくなって治してやるんだという気持ちになってはいけないと思います。もう一つ大事なことはやはり脈診ができないとどうにもならないでしょう。これは即座に施術の可否がわかるものですから重要になってきます。これではこれから「てい鍼」をつかってみようという方にあまり参考にならないかも知れませんが、余談ですが私は簡単なヨーガを30年ほど続けていることも「気」を扱うことに少々役だっているのかなと思ったりしています。

この「気」の感覚は患者さんから少々離れていても、置鍼した鍼が緩んだかどうかだいたい判りますし、また施灸時壮数がもうこれでよいか、快か不快かという感覚、施術中相手のからだが気持ち悪いか、気持ち良くなったか(施術が上手くいったか)も解ることがおおいのですがついうっかりすると逆に相手の気の状態にこちらが振り回されることがあり注意しないといけないというか、修行修行の毎日です。かの名人首藤傳明先生も「よだれがでてくるほど気持ちがよい」ということを仰っていたように思いますが、ああそれその感覚わかる気がします。 この文章を書いた後で首藤傳明氏の「超旋刺と臨床のツボ」をまた読み返したくなったところです。昔からこの先生の文章を読むだけでそのなかにワクワクしたものを感じるのです。

最近このてい鍼が刺さないで効くと言うことから「あらゆる方面から」かなり注目されているようですがあくまでも古典鍼灸医学理論を理解されて運用してはじめてその効果が発揮できるものでないでしょうか。

 手荒れ 手に湿疹ができ治らない

手の荒れ当院でも若い人におおくみられるようなのですが手が荒れる、それも指先や手関節付近にまで赤く、ボロボロと皮がむけてなかなか治らず人によっては痒みもある。手の拇指、人差し指、薬指などに荒れが目立つようです。程度差はありますが左右対称に荒れることが多いものです。たいていは医療にかかっていても原因が分からず辛くなるとステロイド薬などを塗っていたりするのですがその場しのぎで治らない。それにステロイドを塗り続けていたら皮膚が真っ赤になり薄くなってきて余計辛いという。手掌角化症とか主婦湿疹などと呼ばれているものであろうかとおもうのですがかなりな頻度で困っている方をみうけるものです。

これは手だけが悪くてこのようになっているのでしょうか?それは違うと思います。アトピー体質があるひとにこの傾向があるともいわれているようです。

手荒れに鍼灸が効果あることが知られていないためかこの症状で施術を希望して来院される方はそれほどありませんが主訴症状の改善と同時にいつのまにか手荒れも改善されることが多いです。荒れの症状がよく変化するものは効果もでやすいものです。

手の経絡図 またなぜ特定の指が荒れるかということなのですが東洋医学ではからだに経絡という気の流れ道があるとしています。もしこの症状でお困りの方があればいちどこの経絡の書かれた図というものを検索してみてください。いきなりこのような図をみると受け入れがたいかもわかりませんが漢方、特に鍼灸術ではとても重要なものとされこの経絡が各々の「五臓六腑」に繋がっているとみています。そこで、例えば拇指と示指に荒れが強く出ているものは「肺の臓」と「大腸」に働きのアンバランスがあり、薬指などでは主に「肝の臓」などの不調があったりしてこの場合は偏頭痛やかるいめまいがあったりイライラしやすかったりのぼせやすかったりするかも知れません。発症の原因として考えられるのは出産後や過度の心労、過労、非常に目を使う仕事などによって簡単に言えば、血(けつ)や水(津液)が体内に不足して発症するとみられます。赤くなったところは熱があるためやや暖かったりします。東洋医学的には血を蓄える「肝の臓」、それを支える「腎の臓」をしっかりさせることにより「肺の臓」に籠った熱をさまし手の先に昇った熱を下してやるとよい結果が出ることがおおいです。同じような場所におこる指関節の痛み曲りなどもこの熱をとってやることで楽になるものと考えています。まことにお大雑把な説明になるのですが手荒れ湿疹が悪化したりよくなったりとお困りの時はいちど伝統的鍼灸術をお受けになってみてはどうでしょうか。

 肌がぱっと明るくなるのが合図、そして美顔鍼のこと

美容鍼 美容にはり灸!これはもう鍼の効果として是非知っていただきたいことの一つ。

いろいろな病に対し毎日施術しているわけなのですが鍼灸術ではこうやって効果を確かめているひとつの方法のお話。

それではどうしているかというともちろん施術により症状がその場で楽になる、また次の日に軽くなる等々いろんなみかたはあるのですがうまく施術しますと一瞬お顔の表情や肌がぱっと明るく変わるのを確認することができるものです。本当にうまくいったときには「一瞬に変わります」。ちょうど曇り空が晴れるようにすがすがしく気持ちよくなるのです。そして頸回りなど女性がよく気にする皺(しわ)もこんな時は一緒に減ってくることがおおいので本来の症状軽減に加えこの効果を毎回楽しみにされる方もいたりします。このとき局所にも軽くてい鍼や円鍼などで撫でてあげるとより効果的です。また顔や頸だけでなく全身の肌がつやつやするし体がかろやかになるものです。例えばぎっくり腰になる患者さんたちはほとんどの場合疲れがたまってお体の防備力が低下し発症することがおおいのですがこの方たちの腰部をみますと皮膚がくすんで艶なく全身的にも肌に明るさがありません。そこで全身調整をした後局所に接触鍼で気を補うようにしてあげますと腰はたいへん楽になりますしその表情までも明るくなることを度々経験します。

美肌効果で思うのですが最近「顔面いっぱいに鍼」を刺して「美顔鍼」というのかあれはどうも好きにはなれません。

なぜかというと

お肌の不調に関して古典的鍼灸医学では概ねこう考えています。

・肌に張りがないのは「気」のめぐりが悪いのである。
・肌の色がよくない、シミソバカスが多いなどは「血」のめぐりが悪いからである。
・腫れたり皮膚がたるんだりするのは「水(正確には水に近いもの)」が停滞するからである。
・からだに不要な「熱」が停滞すればできものとなる。
このことからお肌を美しくするには「気」、「血」、「水」のめぐりをよくして不要な「熱」をとってあげればよいことになります。それなら顔面や希望する局所に集中して施術をしてやればよいのでしょうか?もしかしたらその時は効果がでたようにみえるのかも知れません。だが......

人の体というものは傷ができればそこには炎症が起きてご存知のように傷の修復作用がはたらくためにいくらかでも腫と張りが出てくるもの。たくさん傷ができるほど局所の張りと艶はたしかによくなるかもわかりません。人によっては顔はほんのり赤く上気して一時的にでも皺が減ったように見えるかもしれません。数ある美顔鍼のサイトなど見ると鍼数が多いほど効果があるとまでかかれているものもあり、小さな怪我はすぐ治るけれど大きな怪我がすぐ治らないのと同じであるというような説明までみかけます。ですがほんとうに顔だけ健全で綺麗になることが保持できるのでしょうか?

古典では「面ハ諸陽之会タリ」といい顔面はからだ全体に深くかかわっているとされています。いくら顔といえ「気」も「血」も「水」も正常にめぐるには五臓六腑が健康でなければならないはずなのです。そのためには生活習慣や食生活も正さなければ真に健康な肌はそう簡単に手に入らないものだと思います。こってりした肉や油のおおいものの多食やジャンクフード、また頻回に間食して胃腸などに負担をかける、それとは反対に無理なダイエットをする、夜おそくまで起きていたり運動を全くしないなど改善せずに綺麗な肌は手に入らないはずです。鍼治療にしても行気活血、益気補血、活血化瘀と専門的にかなり経験と熟練を要する全身の調整をしなければならないはず。

もっと気になるのは先に書いたように人というものはとかく年齢とともに気が昇りやすいもの。ふつう中年くらいからからだの潤いもなくなってくるもの。また出産などにより体力を消耗することも原因の一つですがどうしても「のぼせ」てくる。閉経の頃になればなおさらこの状態がすすんで調子を崩すことがおおくなる。顔にばかりたくさんの鍼をするというのはどうでしょうか?この傾向を助長しないのでしょうか?めまい、ふらつき、手足のほてり、不眠、動悸などなどと心配してしまいます。いまちょっとした流行なのか「有名女優もなんとか....」と派手なうたい文句と高額な施術料などをたくさん見受けますが効果はいかほど?いちど施術後の脈がどうなっているかからだ全体のはたらきがどうなっているか見たいものです。鍼灸医術の本当の良さはからだ全体の気血のバランスがとれてその人のいま持つ最大限の生命力を発揮させ内側から元気にしてあげてツヤツヤになることだと思うのですが....。ですが女性たちの切なる願いをどうにかしてあげたいとおもう心もたいせつなのかなと考えたりもするのです。

おからだ全体をうまく調整できたときにはお肌がツヤツヤ気分も爽快は事実なのです。 真に健康な人は肌が明るくその目がキラキラ輝いているものです。