書庫 2016年

 風邪をひき治らないひと

この冬当院にも風邪をひいて治らないのでやってきましたという患者さんが何人もありました。なぜか医療関係の方が多いようです。

聞いてみますと薬をもらって飲みながら仕事には何とか行っていたのだがもう体がだるく動くのも大変になってきたのでどうにかしてほしいとうったえられます。電話から聞こえてくるその声は決まったように少し鼻にかかったこもったかんじの声で時々痰がからんだ咳をされているようです。みてみますとほとんどのかたの肌はつやなく青黄色で顔貌は疲れ切って気力なさそう。そして食欲なく朝は起きられない。からだがなんとなく寒いという。薬をいくら飲んでも効かないようなので困り果てているようです。風邪に抗生物質は効かないと知っているのだがつい....と話されることがおおいです。

こんなかたは鍼灸で結構はやく回復するものです。毎回目に見えて良くなる方が多いです。長引いたものは薬などで胃腸がくたびれそのため水分の動きが悪くなり痰が絡みからだもだるくなるので胃腸の働きを活発にして、そして肺の働きも一緒に高めてあげるととても効果的です。どちらかといえば灸をしてあげると気力が益しからだも暖まり心地良いものです。若い方には痕の付かないお灸を使いますので受け入れてもらえるようです。そしてこの事実をもっと世間の人が知ってくれたらよいのにといつも思うのです。でも一番良いのは風の引き初めにはやめに休むなどすればよいのですがなかなかみなさんそうもいかないようです。

 なかなか治らない痛みのこと

夜寝てからの痛み「毎日通院しているのになかなか痛みがとれないのであちこち通ってみましたがよくなりません....、最近は痛み止めもあまり効かなく困っています....。」憔悴したようにこんな訴えをされる方をみかけます。夜間に痛む人 なにか重だるい痛みがする、また就寝して夜中頃になるとけだるいようななんともいえない痛みが出てきて寝られない、辛いので起きてさすってみると少しは楽になる。つぎの朝動き出しはちょっとしんどいのだが動き出すと楽になるので動いてしまう。動きすぎるとその夜はまたつらい痛みに苦しめられる。夜間の安静時痛の辛さから解放されたいのでまた熱心頻回に通院治療する。治療するとそのあとしばらくは痛みが楽になる。だがますます夜間の痛みだるさ重さは増すばかりでどうしようもない。 このような患者さんをみてみますとその患部は力なくつやなく冷たく衣服の上から触れても生気が無くペタンとして温かみがありません。それに元気もありません。またじっとりと汗が出てなんとなく蒸し暑い感じがするというかたもいたりします。なんとなくムカムカした吐き気のようなものをかんじたりするひともいます。これは過剰な治療刺激で本来持っている患部やからだ全体の治癒力が損なわれてしまったのが原因となっているのかも知れません。痛みの部位は両方の肩や肩甲骨のまわり、また腰、下肢、なかには入院中発症した顔面の痛みで医療も効なく困っていた方もありました。特徴的なのはほとんどのかたが痛み止めがあまり効かないと仰います。 熱心に通院しているのになぜよくならないのかとみなさんおっしゃいますが不思議なことに通院を休んだり回数を減らす、かけもち通院治療を止めると症状がすこし楽になるということがあるのです。これも選択肢のひとつであるということです。ふつう治らなければあれこれと沢山な治療をしたらよいと考えるかと思いますし治す側もそう思っていることが往々にしてあるかもわかりません。患者さんが熱心に来てくれればありがたいものですからそこにも「落とし穴」があるかも知れません。 「治るのは治る力を持っているから治る!のです。治る力がなくなれば治らない」、と当たり前のことなのですがいかにこのことを現代人は知らないことでしょうか。 このような状態になると単に痛みを抑えるだけのやりかたや薬で胃腸を荒らしたりすると「治る力」をよけい弱らせてしまうのです。それでますます治らなくなる、治療をするの繰り返しに陥ってしまうこととなります。 それでは漢方医学的鍼灸術ではどうするか?ということになるのですが、西洋医学的考えで痛み止めの効果だけを狙って治る力のことを考えないのでなく、患部、そして一緒に体全体の治癒力を高めるような方法をとります。この回復力を高める方法があるのが本来の鍼灸術の醍醐味かもしれません。ただそのテクニックは経験と熟練を要しなかなか施すのは難しいものですが技術内容はともかく「力なく弱り切ったものに生気を与え治る力を増してあげる」このことがいちばん大事なことなのです。 慢性化した頑固な痛みのなかにはこんな現実もたくさんあるということも参考にしていただきたいと思います。

 皮膚疾患、口内炎口角炎

皮膚疾患 みなさんは古典的鍼灸術が皮膚病にけっこう有効なことがおおいのをご存知でしょうか?

長々と医療にかかっていても薬をやめればまたもとどおりになってしまう、病名はつけられたがまったくよくならない、原因不明といわれたが薬だけはずっと塗っている、ある季節になると悪化する、いつもある場所にだけ湿疹が出る等々よくみうけられます。またアトピー性皮膚炎などは現代医学でもたいへん治療が困難なものの代表ではないでしょうか。それらはあまりにも表面的症状にしか対処法がなされていないからではないでしょうか。

古典的鍼灸医学ではこれらの状況に対して別項に述べましたように西洋医学とはまったく別の見地からアプローチすることになるのですが、具体的に当院でもよくみられ施術成績の比較的良いものを以下に少し紹介します。

まず、アトピー性皮膚炎では漢方でいうところの「風」と「熱」の邪が中心とされるものでからだの上半身に症状が偏っているものは成績が良い場合がおおいです。眼の周りが赤くただれたり痒みが強く、手の荒れがあるなど。このタイプは毎回目に見えて症状が軽減されることがよくあります(アトピー性皮膚炎でなくともこのような症状でお困りのかたもよくみます)。つぎに、掻いた後にじくじくと掻き汁が出るものや皮膚が赤黒くカサカサになったものなどでは病が深いところにあるため時間がかかるようです。しかしおからだの環境を良くしてあげることは重要なことです。できれば少し時間をかけてみるとよいかと思います。症状の辛いときには使いたくないとおもっていても対症療法薬のステロイドやタクロリムス軟膏は重宝するものです。無理をせず気長に鍼灸と併用して離れられたらよいのではないでしょうか。

それと多いのが唇の荒れやひび割れ、口鼻の周りのできものができやすいなど。みなさんよくべったり薬を塗っていたりします。こんな方はきまってやたら食べすぎだったり食べるともたれやすかったり胃腸の具合がすっきりしないものです。両下肢のすねに湿疹ができなかなか治らなかったりちょっと熱っぽいという方もよくみます。これは胃腸の調子を整えてやると良いようです。また食べるのを思い切って控え胃腸を休めてあげると良くなるのですがなかなか実行が難しいようです。

じんましんなどはふつう病が浅いので簡単に治ってしまうものがおおいです。

これは女性に多いのですがくるぶしに硬い座りダコといわれるものができているのも鍼灸施術をしているといつの間にかやわらかくなってやがてなくなってしまい思わぬところに効果が...ということになったりします。

シミそばかすのご相談もありますがこれらはやや時間がかかるようです。その原因は治っていなくてもレーザー治療でとりあえず簡単に見た目は良くなったりしますのでそちらがよろこばれるようです。

他の疾患で鍼灸施術をお受けになっていましても本当に良い鍼をしますと少しずつ肌が綺麗になってくるものです。逆に症状だけ追いかける鍼を繰り返したりしますと肌が薄黒くカサカサして煤けてまいります。肌は生気の顕われ。元気さのバロメーターでもあります。だいじなことは皮膚に現れた病の原因をとってやらなければなりません。

 めまい

辛いめまい「めまいで医療を受けているのだが治らない、辛いのでどうにかしてほしい」とめまいで当院にいらっしゃる方はとても多いです。鍼灸がよく効く症状のひとつではないかと思っています。

立ち眩みするひと、目の前が横に流れるというひと、また難聴気味となったり、耳鳴りがあり、メニエール病かもしれないといわれたひとなどいろいろです。西洋医学での諸検査で重大な疾患との鑑別もすでにされ、以後イソバイドなどの薬物治療もしているのだがおもわしくないのでどうしたらよいかと困っているかたがおおいようです。めまいはほんとうにまた起こるのが恐ろしいと皆さん話されます。 そんななか、何年、また何十年来と悩まされ続けためまいが鍼灸でとても楽になりたいへん感謝されることがたびたびあります。最近も数例続いてあり施術者としてとても嬉しいことです。

めまいする人古医書ではめまいを眩暈(げんうん)とよび、その原因として「諸風掉眩、皆属於肝」として、肝の臓の不調を言い、また「故上氣不足、脳為之不満、耳為之苦鳴、頭為之苦傾、目為之眩。」と頭の気の不足や、そのほか痰(たん)や、陰虚火動などによるとしています。 多い症状として ①頭を動かしたり寝起きしたりするとぐらぐら目がまうひと。また寝返りも辛かったりするようです。②めまいはひどい方ではないがじっと寝ていてもめまい感がある、まうときはフワーとした感じと吐き気がして、お天気が悪いとよくないひと。③朝起きるときや立ったときにめまいするひと。④船に乗っているような浮揚感やゆらゆら感のほうが強いひと。などがあるようです。①のひとには主に肝の臓と胆の腑の働きのバランスをとることをおこないます。このタイプが一番多いようです。精神的ストレスなども大いに関係していたりします。②はおからだの水はけをよくするような鍼灸をすることになります。胃腸の不調などがあるものがおおいようです。③は基本的に血(けつと読む:普通言うところの血に近い概念ですからここでは貧血とみてよいでしょう)の不足のひとが多いようですので血がつくられるようにします。④高齢のかたに多いようです。おからだに潤いを増してあげ気の上昇を抑えるような鍼灸をします。 実際にはこれらが複雑にからみあってなかなか難しいのですが、西洋医学での薬物治療で一時的によくなったものでも実のところはめまいを起こすおからだの「土壌」は依然同じであるということに注意しなければならないとおもいます。

目がまわってから慌てふためくのでなく、症状をとるのも大事ですが、普段からその「土壌」をしっかりさせて病をうけつけにくくするという発想はこの東洋医学的 鍼灸、湯液などのすばらしいところではないかとおもいます。 めまいでお困りの患者さんと出会うたびもっとこの伝統鍼灸術のことを広く知っていただけたら良いのにといつもおもうものです。

 過剰な刺激治療で悪化するお話

癖になるマッサージ じっとしているとだるく重い、肩も凝っている、動いていれば幾分まぎれる、気分もからだもすっきりしないとほんとうにこのような症状のかたをおおくみかけます。痛むので固い物を痛むところに押し付けてなんとか楽にしているというかたも最近いらっしゃいました。そして特に気になるのは治りたいので毎日のように施術治療を受けにいっているかたも多いようです。前回「なかなか治らない痛みのこと」でも述べたようにこれらは過剰な刺激によりさらに症状を悪化させてしまっているかもしれません。

昔、坐骨神経痛で医療にもかかっているのだけれどずっと痛みが治らないという方がおいでになったことがありました。夜間など特に辛いと仰る。実は後でわかったことなのですが癌によるものでした。このようなものはまず最初に頭に入れておかなくてはなりませんがほとんどのすっきりしないだるい痛みは過剰な施術刺激(毎回同じ患部に同じ内容の施術を繰り返したりする)、また按摩器や電気治療器などに頻繁にかかる癖などが原因のひとつではないでしょうか。これらの治療器あるいは徒手などでますます強い刺激レベルにしないと「満足できない、もう目盛が最高レベルまで上げないと満足しない。こんなこころあたりがある方が案外たくさんいらっしゃるかも知れません。強くすれば気持ちいい、治らないのでもうその場だけでも楽になればよいと強くする、そんなことになっていたりしないでしょうか?たとえ鍼治療であってもこのような強制的に痛みをその場だけ楽にするようなやり方をすれば同じことになるでしょう。そして結果として前述のような泥沼の症状悪化から抜け出せなくなるのです。

それではこんなときどうすればよいかということを前にも書いたのですが本当に信じられないような接触するだけの鍼や小さなお灸を数か所でよいので灸痕がつかない程度にすえてあげることで楽になることがおおいものです。お年寄りの方の夜間痛などとても楽になってよく寝られるようになったと感謝されたりします。

過剰に刺激を受けてもう「くたくた」になったところの回復力を高めてあげるとよい結果になるのですがしかしこのテクニックは微妙です。ここでもやはりやり過ぎはだめなのです。肌のつやがさっと明るく張りが出た時が最高状態、「見逃してはなりません」。もちろん全身状態も同時に良くしなければいけません。ただここでも長年頑固に「この状態を続けてきたかた」では時間がちょっとかかることになります。治療すればすぐ楽になるのが当たり前と考えていたりして、残念なのですがせっかく来院されても脱落してしまうこともよくあるものです。

 腎と耳(腰痛治療で耳が聞こえ出す)

耳と腎の関係 東洋医学的には「腎ハ耳ヲ主ル、腎竅(キョウ)ニアリテ耳トナス」とあり腎の臓と耳は深い関係があるとされている。そのことをあらためて感じたことのひとつ。 高齢の女性患者さん。腰痛で医療にかかっているもよくないという。ブロック注射をしているらしい。臀部から大腿外側にかけ痛み歩くのは杖がないとできないという。腰(腎)に原因があるとみて施術する。症状としてそれほど難しいものではない。施術後は毎回歩行も大変楽になり喜んでおられるよう。数回施術で杖も不要になる。ところが最初問診も不自由なほど難聴であったはずのものが最近よく聞こえているようである。付添いさんも話しやすくなったと仰っている。この方は本来体力もあり施術に対して反応がよく肌艶までもよくなっている。 あらためてこの医術の良さ素晴らしさ奥深さを、嬉しさとともに感じた症例となりました。